上場株式の売却で損が出ても、給与から税金が自動的に返るわけではありません。条件を満たす譲渡益や、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当等と損益通算し、引ききれない分は翌年以後3年間へ繰り越せる制度があります。ただしNISA内で発生した損失は対象外です。証券会社から年間取引報告書が届いた会社員向けに、申告した方がよいケースと、申告後に続ける手続きを整理します。国税庁の案内を2026年9月25日に確認しました。
まず口座を分ける:税務上の損失になるのはどれ?
| 取引 | 申告で確認すること |
|---|---|
| 同じ源泉徴収あり特定口座の譲渡損益 | 口座内で計算。配当を受け入れている場合、その配当と口座内で通算されることもある |
| 複数の課税口座の損益 | 証券会社・口座間で通算するには確定申告が必要 |
| 上場株式等の配当 | 配当を申告分離課税で申告する場合に損失と通算できるか確認 |
| NISA口座の売却損 | 他口座と通算・繰越はできない |
| 給与所得 | 上場株式の売却損を差し引けない |
同一の源泉徴収あり特定口座内で配当を受け入れる設定なら、証券会社が同じ口座の上場株式等の譲渡損失と配当を通算する場合があります。すでに口座内で反映されている金額を、申告時に「未通算の損失」としてもう一度引かないよう、年間取引報告書の欄を確かめます。
申告で得する可能性があるケース
一つの証券会社の特定口座Aで利益があり、別の証券会社の口座Bで損失がある場合、口座をまたいだ損益通算を申告で検討できます。特定口座・源泉徴収ありだからといって、口座をまたぐ取引まで自動集計されるわけではありません。売却益がなくても、申告分離課税で申告した上場株式等の配当等があれば、条件を満たす譲渡損失との通算を検討できます。
その年に通算しきれない上場株式等の譲渡損失は、要件を満たせば翌年から3年間繰越控除の対象になります。最初の年に申告し、翌年以降も所定の書類を添付した申告を連続して行うことが重要です。取引をしなかった年も、損失をさらに翌年へ繰り越すための申告が必要と国税庁は案内しています。
申告を決める前の注意点
申告で税額が下がる可能性があっても、ほかの所得や扶養、保険料等への影響は本人の条件で異なります。源泉徴収あり特定口座の申告不要制度を選べる所得を申告する場合、申告所得の扱いが変わることがあります。税額だけを見て即決せず、申告書作成コーナーで本人の資料を入力して結果を比較してください。配当を総合課税として申告するか、申告分離課税として申告するかでも、配当控除や譲渡損失との通算の扱いが変わります。
数字で考える:2口座と繰越の例
これは制度理解のための仮例です。課税口座Aに上場株式の譲渡益10万円、口座Bに譲渡損失16万円がある場合、申告により対象となる損益を通算すると当年の差額はマイナス6万円です。証券会社や銘柄、取引の区分、必要書類を確認したうえで、残額6万円の繰越を検討します。翌年に上場株式等の対象となる利益4万円があれば、条件を満たす繰越損失の範囲で差し引く可能性があります。残る2万円をさらに次の年へ持ち越すには、連続した申告などの条件を満たす必要があります。
この例にNISAでの売却損5万円を加えても、課税口座Bの損失16万円が21万円に増えるわけではありません。また給与から残額6万円を引く計算でもありません。実際の還付額は源泉徴収税額などで異なり、損失があるだけで現金が戻るとは言えません。
申告前に集める書類と手順
- 口座を棚卸しする。源泉徴収あり・なしの特定口座、一般口座、NISAを証券会社別に列挙する。
- 年間取引報告書を確認。各社の譲渡損益、配当、源泉徴収税額を見て、口座内で既に通算された額を把握する。
- 一般口座の取引を整理。取得費用、売却代金、手数料など必要な記録を確認する。
- 前年までの申告書を探す。繰越損失があるなら、前年までの「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」等と残額を照合する。
- 配当の申告方式を選ぶ。通算したい配当については申告分離課税が条件となる点を確認する。
- 申告書を作り、提出後も保管。翌年以降に取引がなければ申告を忘れがちなので、繰越期間の年をメモする。
報告書を集めるだけなら30分程度で終わる場合もありますが、複数口座・一般口座・前年繰越があると計算に時間がかかります。口座ごとに同じ年の報告書を並べ、申告画面の入力額と合計が一致するか確認してください。
よくある失敗と確認法
- NISAの損失を足す。非課税口座の売却損は通算・繰越できません。
- 同じ口座内の通算を二度入力。年間取引報告書の譲渡損益と配当欄を見て、既に調整済みか確認します。
- 損失が出た年の申告を忘れる。翌年以後の繰越を希望するなら当年分の申告手続きを確認します。
- 取引ゼロの年は何もしない。繰越の継続には取引がない年も申告が必要です。
- 給与から損を引く。通算・繰越できる所得の範囲を確認します。
- 配当控除と併用できると思い込む。配当の課税方式により適用できる制度が異なります。
年をまたぐ損失管理の例
年末に損失が残ったときは、「今年の譲渡損失」「今年の申告分離課税の配当等との通算後の残額」「翌年へ繰り越す額」を別々に記録します。翌年の利益が少なかった場合、残額が減っても消滅するとは限りません。ただし生じた年からの繰越可能期間は3年間で、毎年の申告が必要です。損失発生年が異なる残額を一つにまとめると期限が分からなくなるので、年別に表を作ってください。
たとえば2026年発生分と2027年発生分の損失がある人は、両者を「総額いくら」とだけ書かず、発生年・申告済みか・当年控除額・残額を別々の行にします。証券会社の年間取引報告書だけでは、過去の申告で控除した額が追えないことがあります。前年の申告書控えと計算明細書を一緒に保存すると、翌年の入力を検証できます。
家族の口座や未上場株を混同しない
同じ家庭で投資をしていても、本人と家族の損益を家計全体で合算して申告するものではありません。口座名義人ごとの申告資料を分けます。また、未上場株と上場株式等では損益通算できる範囲が異なるため、銘柄が「株」であるだけでこの制度に含めないでください。ETFや外国株を含む個々の商品の区分は、証券会社の明細と国税庁の説明を照合します。
申告する前に考える費用と時間
申告書作成コーナーの利用自体に料金はかかりませんが、口座が多ければ報告書の収集、入力、前年の申告書との照合に数時間かかる場合があります。税理士に依頼するなら料金を事前に確認し、見込まれる税負担の差額と作業時間を比較しましょう。損失の申告は将来の利益を保証するものではありません。
よくある質問
特定口座なら確定申告は不要ですか?
源泉徴収あり口座は原則として申告不要を選べます。ただし他口座との損益通算や繰越控除を使うには確定申告が必要です。配当と同一口座内の損失が通算済みかも確認します。
損失を給与所得から差し引けますか?
上場株式等の譲渡損失を給与所得から控除することはできません。対象となる上場株式等の譲渡所得や申告分離課税の配当等の範囲で検討します。
3年繰越は手続きなしで自動ですか?
いいえ。損失が生じた年分と、その後の連続した確定申告が必要です。詳細は国税庁のNo.1474の添付書類と条件を確認してください。
提出前チェックリスト
- NISAの損失を除外した
- 特定口座の口座内通算済み額を確認した
- 前年からの繰越残額と申告書を照合した
- 配当の申告方式を選び、申告による他制度への影響を検討した
- 翌年以降も連続申告する予定を記録した
出典:国税庁 No.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」、国税庁 No.1476「特定口座制度」。公式情報確認日:2026年9月25日。
副業の赤字もある場合は、株式の損失と同じ扱いになると考えず、所得区分ごとの違いを確認しましょう。 YouTube副業が赤字なら確定申告するべき?損益通算と繰越控除をご覧ください。

